X のタイムラインにたまたま流れてきて、新規事業を立ち上げるためにリサーチをしている人が近くにいたので、参考になるかもしれないと思い読んでみた。「ユーザーの声を意思決定につなげるためにできること」というサブタイトルにビビッと惹かれたというのもある。
UXリサーチの活かし方 ユーザーの声を意思決定につなげるためにできること目次
- 序章 「ユーザー理解」と「事業」をつなげる
- 第1部 3つの視点でリサーチの必要性を捉える
- 第2部 リサーチの波を作る
- 第3部 リサーチの波を組織全体に広げる
- 第4部 リサーチを継続させる
- 第5部 事例集:組織に合わせてユーザー視点を届ける
感想
序章のタイトルにもあるように、『「ユーザー理解」と「事業」をつなげる』ことを大目的として、組織にUXリサーチを根付かせるためのいろんな工夫や試行錯誤について紹介されている本。UXリサーチそのものの詳しい各論や方法論については触れられていないので、必要な人は別の書籍を読んで欲しいとのことだった。
本書では、「UXリサーチ」について、「事業を正しい方向に進めるための意思決定をサポートする手段のひとつ」として一貫して捉えているように感じた。
せっかく時間をかけて行ったリサーチが、意思決定につながらないのはなぜか。それはきっと「意思決定に繋げる」という強い目的意識で取り組んでいないから。明確に目的を持てば、設計も準備も取り組み方も変わってくる。リサーチに限らず、さまざまな取り組みニオイて強い目的意識を持つことは大事だと自分は考えていたから、とても共感できた。
事業や組織、その中にいる人たちの日々の活動は、どうしても短期・中期的な目標やKPIに焦点が当てられることが多い。UXリサーチなどの、効果が出るまで少し時間がかかることがあるタイプの取り組みについては、なかなか優先度が上がらないことが多い。これはUXリサーチに限らず、他の「効果が少し遅れて現れる」タイプの取り組みについても同じことが起きがち。(技術的負債の返済など)
本書では、個人、チーム、組織(会社)といった様々なスコープにおいて、事業を正しい方向に進める力を持ったUXリサーチを浸透させる際にぶつかる以下のような課題について、どう向き合い、どうやって前に進めていくかということについて書かれている。
- まだUXリサーチの取り組みが根付いていない組織の中でどのようにUXリサーチを始めるか
- どのように周囲の人たちを巻き込んで組織内に波を作るか
- どのように継続的にUXリサーチで得られたユーザー理解が事業運営に活用され続ける状態を作るか
どれも、実際にぶつかって困っている人を過去に自分も見たことがあるようなリアルな課題に。著者の実際の経験や、インタビュー事例をもとに、課題を乗り越えるためのいろんな工夫や試行錯誤を、背景や根拠も併せて詳しく解説されていた。同じ課題や悩みを抱えている人にとっては、「こんな風に解決できることもあるんだ」「こうすればうまくいくんだ」という感じで、参考にできる部分が大いにありそうだと思う。
組織の中で、UXリサーチのような取り組みが行われていたとしても、その成果や情報が一部のメンバーの中だけで閉じてしまったり、せっかく深まったユーザー理解が事業やプロダクト開発の意思決定になかなか活用されなかったり、といったシーンを何度か見た記憶がある。また、これらができていても、どんどん人が入退社したり、事業やプロダクトの置かれている環境が変わったりで、情報が古くなったりアップデートされなくることがある。また、活動自体が立ち消えてしまい、せっかくの生まれた取り組みが継続しなかったり、といった状況もよくある話。(UXリサーチに限らずいろんな取り組みでよくある)
こういうことが起きないためには、UXリサーチの取り組みを始めた「後」がとても肝心。その成果を事業を成長させる意思決定に継続的に繋げていくための仕組みづくりまで、ちゃんとやり切ることが必要だと思う。そして、それは取り組みを始めることよりも難しいことが多い。
本書では、スタートアップのような事業環境、組織、メンバーが激しく変化するような状況も考慮した上で、継続的な仕組みづくりや取り組みを持続的なものにする工夫について、しっかり紹介されているのがとても良かった。たとえば、新入社員のオンボーディングにUXリサーチの観点を含める仕組みづくりについても言及されていて、とても参考になった。
自分はソフトウェアエンジニアとして、ユーザーの課題を本質的に解決し、大きな価値を提供し続けるプロダクトをずっと開発したいと思って、これまでスタートアップでやってきた。ただ、本書に書かれているほど、ユーザー理解の大切さについて本当に理解していたかというとそうではないし、ユーザー理解を深めるための行動を自ら積極的にたくさん行ってきたかでいうとそうではないと思う。
本書を読みながら、『「ユーザー理解」、と「事業」をつなげる』ことを、著者が心の底から大事にしていることがすごく伝わってきた。伝わりすぎて、最後のあとがきを読んでいるときに感情移入しちゃって、うるうるしてしまったほど。おかげで、自分が理想とするプロダクト開発のあり方と、それに対して自分がこれまでやってきたことのギャップを認識することができた。
次こそは自分ももっとやってやるぞ、という気持ちになれて良かった。おすすめの本。