目に見えないものが、物事の成功や失敗を決めている
2026年3月16日に開催される「EMが「推し本」を語る会 ーEMConf JP 2026 非公式サブイベント」のLT登壇枠(5分)で話す機会があるので、まだ前日だけど、自分にとっての「推し本」について、このブログでも紹介してみる。

推し本は『ピクサー流 創造するちから - 小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法』。
2015年にふと手に取って読んだ本。今から10年以上も前だけど、読んでから今まで、特に僕がスタートアップでマネジメントするにあたって、すごく支えになってくれた本。
この本を読んでから現在まで、頭の中にずっと強く残っている言葉がある。
「物事の成功や失敗の多くは、自分の目では見えないものによって決まっている。」
改めて書籍のページをめくってみても、一言一句同じ文章が見当たらないので、あくまでも自分がこの本を読んだ後で、強く受け取った印象。
近しい文章はあったので、抜粋してみるとこうだ。
「測定できないものは管理できない」。ビジネスや教育の現場でそう言われ、信じられている。とんでもない。どれだけのものが見えずに隠れているか、それに気づいていない人にしか言えない言葉だ。人の管理するものの大部分は、測定できない。そこに気づかないと予期せぬ結果を招く。データが物事の全容を表すと信じている人は、現れていないものを見過ごす。私が進めるアプローチは、測定できるものは測定し、その結果を評価し、大半のことは測定できないと理解する。そうしてたまに一歩引いたところから自分のやり方を見直すことだ。
読む人によっては直感に反するだろうし、「いやそんなことはない」って反論をしたい人も多いと思う。
これを読んだ当時の僕は、アーリーステージの小さなスタートアップのCTOから、大企業であるリクルートに転職して、大規模な事業のテックリードをしている頃だった。不確実性が大きく異なる2つの環境でのソフトウェア開発を経験したこともあってか、上記の文章にめちゃくちゃ共感したことを覚えている。
それから約10年間、またスタートアップに戻って、複数の会社で不確実性と闘ってきた。ソフトウェアエンジニアとして、エンジニアリングマネージャーとして、VP of Engineering として、取締役CTOとして。大変なこと、難しいこと、たくさんあったけど、僕はいろんなシーンでこの言葉に助けられてきた。
「物事の成功や失敗の多くは、自分の目では見えないものによって決まっている。」
自分にとっては、この言葉が「憲法」のような存在。半ば「依存」しちゃってたり、自分にとって都合がいいように解釈している可能性もある。けど、本当に大事な言葉。
特に、自分がスタートアップのマネジメントにおいて、以下の3つを重要なことだと捉え、実践する上で、この言葉が大きな支えになった。
- 不確実性が高い状態のまま課題を解く
- 目に見える結果だけで判断しない
- 人が持つ創造性を信じる
不確実性の高い状態のまま課題を解く
スタートアップは不確実性の高い環境だ。
ビジョンはあっても、「なぜ」「誰の」「何の」課題を解くのか、まだ明確に決まっていないことも多い。それらが決まっても、解決された世界がどういうものなのか、そこにどうすれば辿り着けるのか、社内の自分たちも世の中も誰も正解を持っていない状態。
そういった環境で、まだ世の中に存在していない、圧倒的な価値を持った、事業・サービス・プロダクトを生み出し、ユーザーや顧客に届けていく必要がある。
不確実性の高い環境は、人を不安にさせる。今見えている情報や事実から、さっと物事を決めて不確実性を小さくしたい。複雑な問題は、あえて単純化して捉えて、すぐに解決できるようにしたい。スタートアップにいるとそういう気持ちにどうしてもなってしまうことが多い。
でも、この言葉の存在によって、自分は踏みとどまれたことが多かった。
「物事の成功や失敗の多くは、自分の目では見えないものによって決まっている。」
- 今見えているものだけで、物事を判断しない。
- シンプルでわかりやすいロジックに飛びつかない。
- 今見えているもののほかにも選択肢があるはずだ。(A or B ではなく A and B)
- 今物事を決めてしまうことによって、さらに見えなくなってしまうものがあるかもしれない。
そうやって踏みとどまれていなかったら、スタートアップが生み出す価値の上限や可能性を、知らない間に小さくしてしまっていたかもしれない。
不確実性の高い状態や、複雑な状態のまま問題を解くことは、スタートアップがフルスイングして特大ホームランを狙うなら、欠かせない要素のひとつだと思う。この言葉があったから、不確実性の高さに耐えて、意思決定や行動を重ね続けることができた。
目に見える結果だけで判断しない
この本には、「測定できるものしか管理できない」という考え方への強い違和感が書かれている。
それに強く共感したので、自分がチームや個人のアウトプットについて考えるときも、目に見える(=測定できる)結果だけで判断しないようにしてきた。数字として定量的に測定できる成果はもちろん大事。でも、それと同じくらい、その背景にある過程、迷い、葛藤、試行錯誤、チャレンジと失敗にも目を向けるべきだと思っている。
うまくいっていた事業やプロダクトが、次第に、あるいは急にうまくいかなくなる状況を何度か経験した。最初の頃に「うまくいった要因」だと考えていたことが、環境の変化とともに「うまくいかなくなる原因」に変わってしまうこともあった。
スタートアップでは、想定外のことが起きたり、身を置く環境が一瞬で大きく変化することがよくある。目に見える結果や、そのわかりやすい要因だけを見ていると、そういった変化に機敏に反応しづらい。わかりやすい結果と要因の因果関係にしがみつきすぎて、行動が遅れたり、そもそも行動できなくなったりする。
そんなときに、ぱっと見では目に見えないことにも目を向け、理解しておくことで、物事の結果とその要因に対する解像度が上がり、そういった状況にも適切に対応できる確率が上がる。
何かが成功・失敗したときに振り返りを行うことはよくあるが、すぐに原因を決めつけないほうがいいこともある。偶然うまくいった。たまたま向かい風が吹いていた。そんなこともあると思う。すべてを認識して備えることはできない。ただし、それを見ようとしたり、見えないものがあるという前提で計画を立てて行動したりすることはできる。
この言葉があったから、たまに違った視点で、まだ見えていないものを探しに行く習慣ができたのだと思う。
人が持つ創造性を信じる
もうひとつ、この本から受け取ったのは、「一緒に働く人たちが高い創造性を絶対に持ち合わせている」と強く信じるべきだということ。
人が持つ創造性というものは、なかなか目には見えない。見ようとしてもなかなか見えない。であれば、「可視化しきれない」と割り切ってしまい、「絶対にそこに存在するものだ」と仮定して、それを強く信じることにした。
先ほど書いたように、スタートアップは不確実性が高い環境だ。その中で圧倒的に価値あるものを生み出すためには、優秀な人たちに仲間になってもらい、その人たちの創造性や可能性を最大限引き出すことが大事。
一緒に働く人たちが、すでに本来持ち合わせている創造性や可能性を最大限引き出すにはどうすればいいか。それはどんな組織か。逆にいうと、それらを邪魔しないためには何をすればいいか / 何をやらないべきか。スタートアップでマネジメントをする上での意思決定軸として、これらを最優先事項に掲げながら、物事を前に進めたり仕組みを作ることが、とても多かった。
もちろん「信じられる人」を仲間に入れていく必要がある採用の難しさはあるし、信じるが行き過ぎて、勝手な期待を押し付けてしまってうまくいかなかったこともたくさんある。
でも、この言葉があったから続けてこれたし、これからもやっていく。まだ見えていない創造性が発揮され、可能性が育つ環境を作りたい。僕がやりたいマネジメントはそういう形。
終わりに
『ピクサー流 創造するちから』を読んでから10年以上経つけれど、いまでもこの言葉はずっと僕の中に残っている。
「物事の成功や失敗の多くは、自分の目では見えないものによって決まっている。」
不確実性の高い状態のまま課題を解くこと。目に見える結果だけで判断しないこと。人の創造性を信じること。自分にとってこの3つは別々の話ではなく、全部つながっている。
この感覚を持つことで、スタートアップで働くときの世界の見え方は少し変わる。同じく高い不確実性と日々向き合いながら、素晴らしい事業やプロダクトを生み出そうとしている方にとって、何かの参考になれば嬉しい。

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